大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和31年(ネ)941号 判決

控訴会社が、もと無尽業を営むことを目的とし、駿河無尽株式会社と称していたが、昭和二十七年六月三十日相互銀行法の施行により同法の相互銀行となり、商号を株式会社静神相互銀行と改めたこと、昭和二十六年頃控訴会社伊東支店においては雲野久作が支店長の職にあり、稲葉政弘(原審被告)が同支店の社員として勤務していたところ、被控訴人が稲葉八十吉を通じ稲葉政弘に対し、(イ)昭和二十六年五月二日金十万円、(ロ)同月十一日金三十万円をいずれも期間一年、利息(イ)につき一箇月金五千円、(ロ)につき一箇月金一万円と定めて交付したことは当事間に争がない。

しかも右被告稲葉政弘の供述によれば被控訴人は控訴人に対し定期預金をなす目的を以て稲葉八十吉を通じ右金員を稲葉政弘に交付したことを認めることができる。よつて稲葉政弘に控訴人に代り被控訴人との間に預金契約をなす権限を有していたか否かにつき案ずるに、雲野久作が控訴会社伊東支店長として控訴会社に代り同支店の預金契約その他事務一切を処理する権限を有しており、稲葉政弘が同支店に勤務し、無尽加入の勧誘とその集金事務に従事していたことは当事者間に争がなく、(従て雲野久作は商法第四十二条により同支店の支配人と同一の権限を有するものと解される)また証拠によれば、稲葉政弘は、右支店において、昭和二十四年五月頃から支店次長を命ぜられ、支店長不在の場合は、支店長に代り、預金契約、集金保管、その他の事務を処理する権限を与えられており、同支店印、及び支店長印の保管をも託されていたことを認めることができる。しかしながら稲葉政弘が同支店において、支店長在店の場合にもなお右権限を与えられていたことはこれを認めるに足る証拠はなく、却て上記証拠によれば、稲葉政弘は支店長在店の場合には右権限を与えられていなかつたものと認められるところ、稲葉政弘において稲葉八十吉から前記金員を受領した際支店長雲野久作が不在であつたことについては原審における被告稲葉政弘の供述(第一回)によつてはこれを認めるに足らないし、他にこれを認めるに足る証拠はない。従て稲葉政弘は右支店長に代り被控訴人との間に右金員につき預金契約をなす権限はこれを有していなかつたものと認めなければならない。よつて更に、被控訴人において稲葉政弘に右代理権ありと信ずるにつき正当の事由があつたか否かにつき案ずるに、稲葉政弘は前記説明の限度において控訴会社を代理する権限を有していたものと認められるところ、稲葉八十吉において被控訴人のために控訴会社に前記金員を預け入れるにつき稲葉政弘が控訴会社に代り預金契約をなす権限をも有するものと信じていたことは証拠によりこれを認めることができる。尤も右証人稲葉八十吉の供述によれば、稲葉政弘は稲葉八十吉の甥に当る関係にあること、稲葉八十吉は被控訴人のため前記金員を定期預金の目的として稲葉政弘に交付した後、被控訴人に代り右預金の満期前に利息金の支払を受けたこと、及び昭和二十七年末頃稲葉八十吉が控訴会社本店において伊東支店の金融関係を尋ねられた際、中途で卒倒し治療を受けたこと、また右原審被告稲葉政弘(第一回)の供述によれば、右金員は稲葉政弘において費消したことがそれぞれ認められるけれども、これ等の事実によつては右認定を動かすに足らない。しかも証拠によれば、稲葉政弘は控訴会社から伊東支店の次長を命ずる旨辞令を受けた後、これを稲葉八十吉に披露すると共に、本店との決済関係から預金の増加を図る必要があると称して預金勧誘方を依頼したので、稲葉八十吉はこれを容れ、その女婿である被控訴人に同支店へ預金することを懇請し、同人をして控訴会社に対する定期預金として前記金額を右支店に預入れることを決意させたこと、よつて稲葉八十吉は被控訴人から右金額を受け取り、被控訴人に代りこれを右支店に二回に亘りその執務時間中に持参し、同支店二階の応接室として使用することのある一室において稲葉政弘に交付したこと、その際稲葉政弘は右金員を受領すると引換に控訴会社において曾て使用したが昭和二十四年頃からその使用を禁止した特別定期預金証書用紙を使用し、これにその保管を託されていた駿河無尽株式会社伊東支店及び支店長の各印顆を押捺して被控訴人宛に作成した同支店名義の定期預金証書(甲第一、第二号証)を稲葉八十吉に交付したこと、及び被控訴人はこれより先控訴会社に金五万円の預金をなし、右と同一形式の預金証書の交付を受けたが同預金については控訴会社からその後その返済を受けたことを認めるに足る。右認定の事実によれば、稲葉八十吉において稲葉政弘が控訴会社に代り被控訴人との間に上記金員を目的とする預金契約をなすに当りその権限を有するものと信じ、且このように信ずるにつき正当の事由を有していたものと認めるのが相当である。従て控訴会社は稲葉葉政弘の右行為につきその責に任ずることを要するものといわなければならない。

(牛山 岡崎 渡辺一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!